小穴隆一「鯨のお詣り」(77)「一游亭雜記」(8)「自畫像」
自畫像
二人の時、飯を食ひながら女房は私に斯う言つたものである。
「あなた、あんなお母さんの子にどうしてあんな可愛らしいお孃さんが出來たんだらう、ねえ。」
三人の時、火鉢を圍みながらの話にお孃さんは斯う私達に語つた。
「母と一緒に歩くとはづかしい。」
――乍去(さりながら)描(か)かれた畫面をみれば、悲しむべし。母娘(おやこ)の相違は、單に娘が斷髮であり、洋裝であるといふ以外に示す何物もない。私をして愕然たらしめたものは、おそるべし。お孃さん自身の手になる木炭畫の數枚、その自畫像であつた。私は最初母親がポーズしたものと思つた。
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