小穴隆一「鯨のお詣り」(70)「一游亭雜記」(1)「男の子」
一游亭雜記
男の子
別に通る人もない二月なかばの日の事である。
夕方、一軒を置いて隣同志の男の子供達は、めいめいの家(いへ)の門(もん)を出てかちあつた。ことによるとそれは、僕の家で買つてゐたときらしい。子供達が豆腐屋の桶をのぞきこんだ。七つの子が五つの子に
「コノナカニオシツコヲスルト、アワガブクブクタッチオモシロイヨ。」
と言つた。
五つの子はちんちを出してみた。七つのはうもちんぽこを出した。さうして、同時にオシツコをしてしまつた。子供達が愉快とした事も、その桶のなかのアブクから露顯してしてしまつて、雙方の親が桶の豆腐代を辨償した。わるいことには、豆腐屋はその豆腐を捨てずに、またほかに持ちまはつて賣つてゐたものらしいのである。
氣持ちのいいものだ。僕は少年時代に度々(たびたび)浴槽のなかで小便をした。その話を、話を聞かせた家人に聞かせて、自今(じこん)豆腐は豆腐屋まで買ひにゆくべしと堅く申渡しておいた。
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