小穴隆一「鯨のお詣り」(55)「影照斷片」(13) / 「影照斷片」~了
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彼にあつて志賀直哉は別格である。
自分にあつては、文藝生活に於ける彼に絲(いと)を投げかけた者を、漱石、潤一郎と信ずる。
[やぶちゃん注:「二つの繪」版の「芥川・志賀・里見」の原型の一部。]
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「互(たがひ)にただの鼠(ねづみ)でないと人に思はれてゐるのがつらい。」
仙臺の宿で、醉餘(すゐよ)の里見弴(とん)はかう搔口説(かきくど)いて彼に言つたといふ。
「君も僕もただの鼠でもない者が、ただの鼠ではないと思はれてゐる。」
講演旅行から歸つて自身の室(へや)に這入(はい)るなり、彼は自分にさう言つて悄然としてゐた。
[やぶちゃん注:「二つの繪」版の「芥川・志賀・里見」の原型の一部。]
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[やぶちゃん注:底本では前の「×」と以下の文章全体がポイント落ちで、更に以下の文章は本文四字下げ下インデントである。ルビは一切附されていない。芥川龍之介の告別式の配置図は「二つの繪」版の「芥川の死」に挿入されているそれ(これ)よりも大きな上に、版が異なるので底本のものを新たにスキャンしてここに示した。]
二三二頁は昭和二年七月二十七日午後三時より行はれた下谷區谷中齋場に於ける芥川龍之介告別式場の見取圖である。菊池寛が友人代表として弔詞を讀んだ。
「芥川龍之介君よ、君が自ら選み、自ら決したる死について吾等何をかいはんや、たゞ吾等は君が死面に平和なる後光の漂へるを見て甚だ安心したり。友よ安らかに眠れ‥‥」
と一言讀んで聲をのみ二言讀んで淚を拭ひ、終に聲をたててさへ哭いた。滿場涕位した。
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