小穴隆一「鯨のお詣り」(45)「影照斷片」(3)
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大正十五年の冬、鵠沼にゐた僕等は、そこから一度横濱まで、シネマを見に出かけて行つた。
僕等はヴアレンチノの「熱砂の舞(まひ)」を見物してゐた。彼は、「かうやつて死んだ者がまだ動いてゐるのをみると妙な氣がするねえ」と言つて見てゐた。(註。ヴアレンチノはその前かた天國の人になつてゐた。)
昭和二年の秋、田端で大勢でシネマのなかの生前の芥川龍之介を見た。僕は改造社の現代日本文學全集の廣告フイルムのなかに動いて、なんともいへない顏をしてゐる彼を見た。
[やぶちゃん注:「二つの繪」版の「影照」パートの「ヴァレンチノ」の原型。]
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