小穴隆一「鯨のお詣り」(88)「答人」
答人
童(わらべ)ありて、駱駝(らくだ)を描(ゑが)くに、
駱駝の顏、
まこと駱駝の顏なれど
駱駝の足(あし)、
駱駝の足はまこと松葉杖をつきたらむにも似つ、
さればわれわが杖をとりて庭に出(い)で、
首(かうべ)をのべて童にわが駱駝の足を見するかな。
童あり、脱疽にて足頸(あしくび)を失へるわが脚(あし)、
わが脚は袋(ふくろ)かむせてあれば、
馬の首(くび)馬の首とてうち囃(はや)す。
まこと馬の首に似つ、わが脚。
さればわれわが片足を撫(ぶ)して立ち、
馬首(ばしゆ)を廻(めぐら)して童に嘶(いなゝ)きてみするかな。
童あり、「おまきかへ」をするわが部屋に入込(いりこ)みて、
踵(くびす)なきわが足の創口(きりくち)を窺(のぞ)き、
象(ぞう)の鼻(はな)象の鼻とて喜悦す。
まことわが足は象の鼻の如くなりて癒ゆるかな。
さればわがこころ象となりて、
わが象の鼻をのばし、ふりたてて童に戲むる。
[やぶちゃん注:「答人」の標題にルビはない。謂いは「人に答ふ」であるが、「タフジン(トウジン)」と音で読ませる気かも知れぬ。
「おまきかへ」老婆心乍ら、「お卷き替へ」で切断面をカバーしている繃帯を取って交換し、巻き替えることである。]
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