斷章 21 山村暮鳥
斷章 21
一本の樹のそばをとほりすぎただけで
それをみることによつて
自分は自分を幸福にすることを知つてゐる
*
人と話をしただけで
自分はその人を愛してゐるといふおもひによつて
どうして幸福を感じないでゐられようか
*
實際、すつかり途方にくれてしまつた人でさへ
あゝ綺麗だなと思ふやうな
美しいものが一步每にいくらでもあります
あかんぼを御覽なさい
朝燒けの空をごらんなさい
伸びゆく一本の草をごらんなさい
あなたがたをみつめ
あなたがたを愛するその目をごらんなさい
(ドストヱーフスキイの言葉)
[やぶちゃん注:原典では「(ドストヱーフスキイの言葉)」は前行末より約四字下げ位置から配されてあるが、ブログのブラウザの不具合を考えて上げた。なお、本篇中の言葉がドストエフスキーの何に依拠するものかは検証していない。発見し次第、追記する。]