AT HER GRAVE 山村暮鳥
AT HER
GRAVE
樹の上の
鴉(からす)、鳴かず、
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
縷(いと)の如く、もつれて咽ぶ死の讃美に
淡い勞疲(つかれ)のかがやく時、
會葬者(ひとびと)はただ一つの事をわすれてゐる。
冬にして黃(きいろ)い午後、
梢に鴉がとまつてゐる。
柔かい肌のやうな夕となるも遠からず、
梟は眼をしばたたき、草は冷え、女等は
さすがに受胎をおもはず‥‥
かしこに小さい穴がある。
あはれ、怖しき土の匂ひは、にしきゑの
影の秘密を知らないで、
何の反抗も處女なれば、
そして欺かれて眠つたのは
十字架に聖(きよ)くゆるせし瑪瑙の靈魂
その穴のふかさよ、
その穴の周圍は次第に暗くなる、
梢に鴉がとまつてゐる。
現世ばかりは悲しみの、一日の疲勞の
後の
此の心地よさを何としやう?
さびしくかくれて泪に浮ぶ微笑の
此の愛の暗示を誰かは知る?
[やぶちゃん注:第一連の長いリーダの数は二十四。三点リーダでは詰ってしまって原典のイメージと大きく異なるので二点リーダを繫げた。「讃美」の「讃」は底本の用字。――二日後の母「聖子テレジア」の七回忌に――この詩を捧げる――藪野直史――]