LA BONNE CHANSON第四篇 睡眠の時 山村暮鳥
睡眠の時
月光の銀(ぎん)が樹立(こだち)のうへに散り、
木々の梢から水晶の
靨(ゑくぼ)が光ると、
綠りの夢がおどろきます。
『あゝFさん!』
柔かいこゝろを抱いて古沼(ふるぬま)のほとりに草を
敷きますと、
陰影(シルウエツト)に……
柳の微風(びふう)が泣いてます、
いまは睡眠(ねむり)の時なのです。
空が大きな手をあげてしづかにお前の胸を撫でたらば、
譬へば虹の消えたあとにかゞやく
星のやうなその眼(め)に、
私(わたし)を寫してくれるでせう?
[やぶちゃん注:「LA BONNE CHANSON」五篇の第四篇。
「Fさん」不詳。しかし大いに気になる。何故なら先に引いたように、後の詩「三人の處女」の「二の處女」(おとめ)の名は「F」だからである。]
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