LA BONNE CHANSON第五篇 疲勞 山村暮鳥
疲勞
明日もかうした嫌な日でせう?
地下室(セラア)に近い庖厨(くりや)から濕つぽい色と味との
私語(さゝやき)が、
もれて胃壁(ゐへき)に沁込(しみこ)みます。
音樂的な暗い雨!
何處かで打たせた波の皷動(こどう)が
私(わたし)に夢を要求します。
あゝ私は綿(わた)のやうですもの……
[やぶちゃん注:「LA BONNE CHANSON」五篇の最後の第五篇。彌生書房版「山村暮鳥全詩集」では、ここまでが「『自然と印象』から」パートであるように配されてあり、これを以って「初期詩篇」の頭の「最初期詩篇」と「『自然と印象』から」のパートが終了している。
「地下室(セラア)」「セラア」は「地下室」のルビ。“cellar”は元来は食料貯蔵やワイン・セラーとしての地下の穴蔵・貯蔵室を指すから、ここもそうした現実から西洋幻想にズラした詩人の意識が見てとれる。そもそもがその仕掛けが総標題のフランス語なのであり、それが全五篇に必ず仕込まれてある外来語であったのであり、しかもそこには、ヴェルレーヌの“La Bonne Chanson”を下敷きとしつつも、遙かに哀しい、永遠に届かないところに去った恋人の香さえも忍ばせて、あるのである。]