NOCTURN 山村暮鳥
NOCTURN
*
海の如く
海よりも瞳は靑し。
女の「幸(さち)」ぞかなしけれ、
うつくしきものは煙の如し
わが夢の悩める。
*
夕月はわたしを泣かせ、
はつ戀は君を歌はす、
たよりなし、
凌霄花(のうぜんかつら)の蔓にかかれる
その花。
*
あちらこちらの靑い空、
わが心の瀦(みづたまり)には
小さな光の渦がまく、
(空こそは君の面なれ)
水すましに近づく死期よ。
[やぶちゃん注:「NOCTURN」もしこれが「夜想曲」(ノクターン)の意で標記されているなら私は暮鳥は「NOCTURNE」と表記すると、遅まき乍ら、今頃になって私は気づいた。これはローマカトリックで聖務日課の中の朝課の一つとする「宵課(しょうか)」「夜課」のことであった。九つの詩編と三つ又は九つの読唱から成り、夜半と午前三時とに行われると辞書にある。
「凌霄花(のうぜんかつら)」シソ目ノウゼンカズラ科タチノウゼン連ノウゼンカズラ属ノウゼンカズラ Campsis grandiflora。ウィキの「ノウゼンカズラ」によれば、『枝先に円錐花序を萌出し、直径』六~七センチメートルの『橙黄色の花を対生する』。『花房は垂下し』、『花冠は広い漏斗型で、先端は』五裂して『平開する』。『花は暖地では晩夏から秋にかけ大量に形成され』、『落花すると、蜜がたれ周りを湿らすほど。その蜜にメジロや蜂が集まってくる』とあり、また『漢名の凌霄花は「霄(そら)を凌ぐ花」の意で、高いところに攀じ登ることによる命名』で、『漢詩では他物に絡むため愛の象徴となる』と記す。
「水すまし」先行する「光」にも出たが、思うに山村暮鳥には、幼少期、ミズスマシに纏わる何らかの隠蔽された心傷体験(トラウマ)があるように私には思われる。]

