洋館の靑き窓第一篇 冬 山村暮鳥
冬
感冒の熱と色に眼を病む
冬の日の鈍いうれひ。
冬の日の鈍いうれひ。
(一ひらごとに蟲喰んで意識に殘る
黑い樹の葉。――)
靑い、靑い空のやうな海上を
北へ
さらに北へ、
汽笛を鳴らして馳つた汽船は
まだ歸らない!
五月……
………
いまは十一月も末である。
ああ、冬の日の鈍いうれひよ
私は今もその汽船を待つてゐる。
[やぶちゃん注:これも底本では「『自然と印象』から」というパート大見出しの中の、本「冬」以下を、
洋館の靑き窓 六編
と総標題する(前の「航海の前夜 五篇」は底本自体が「篇」であったが、ここは「編」である)。その第一篇である。
「蟲喰んで」「蟲」は底本の用字。「むしばんで」。
「馳つた」「はしつた」と私は訓じたい。]
« 「想山著聞奇集 卷の壹」 「狐の行列、幷讎をなしたる事 附 火を燈す事」 | トップページ | 洋館の靑き窓第二篇 時雨 山村暮鳥 »