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2017/03/31

妻と語る   山村暮鳥

 

  妻と語る

 

そのぬひばりを針坊主に刺して

まあ、きて御覽

妻よ

これがお前と自分のこしらへた畑だ

庭隅を掘りおこした

一坪ほどの土ではあるが

それでも

ここにまきつけられた種子は

ここをしんじつの母胎として

かうしていきいきと

芽をふき

葉をだし

するすると蔓までのばした

 

そのぬひばりを針坊主に刺して

まあ、きて御覽

妻よ

にんげんならば手のやうな蔓は

自分が立ててやつた枯木に

それをどんなにまちかねてゐたのであらう

すぐ、ああしてからみついて

いまみるともう

遠い山脈のいただいてゐる雪のようなそんなくつきりした花を

あちらこちらにうつくしくつけはじめた

そら、ね

まつたくこれはおもちやのようの畑だけれど

かうして葉と葉があをあをと

もりあがり

かさなりあつて

風にひらひらしてゐるところは

どうみても大森林のようではないか

 

ほら、蝶々がやつてきた

ほら、縞とんぼがとびたつた

そこにかまきり

どこかにかくれて

鳴いてゐるきりぎりす

それから

そこらを跳ねまはつてゐるのは機蟲(バツタ)の子だらう

 

ああ、いい

ああ、いい

まあ、きて御覽

自分達もそうした仲間であつたらなあ

 

妻よ

こんな酷暑だ

かんかん熬りつけられるやうな

そんな眞夏のまつぴるまだ

いかに自分達のことはいはないにしても

自分はしみじみ

みてゐる目でも凉しいそこの葉かげを

子ども達のためにおもふよ

ほんとに、これは

おもちやのような畑ではあるが

お前と自分で

こしらへたんだ

そしてなんといつても

小さな可愛い蟲けらにとつては

うつくしい自然の大森林であらう

もうあんなに

莢豆もぶらさがつた

 

[やぶちゃん注:「雪のような」、「大森林のようではないか」、「おもちやのような」は総てママ。

「するすると蔓までのばした」彌生書房版全詩集では、この後の行空けはなく、本篇は全五連であるのに、そちらは全四連構成となっている

「自分が立ててやつた枯木に」彌生書房版全詩集では「枯木」は「榾木」となっているここまで電子化してきた経験上からは、暮鳥は蔓性植物の添え木(支え木)として「榾木」を用い、その表記をしているから、印象としては遙かに「枯木」よりもしっくりくる語であることは確かである。

「まつたくこれはおもちやのようの畑だけれど」はママ。彌生書房版全詩集は、「まつたくこれはおもちやのやうな畑だけれど」となっている

「縞とんぼ」腹部に縞模様を持つのは、黄色と黒の縞を持つ人気のある大型種不均翅(トンボ)目トンボ亜目オニヤンマ上科オニヤンマ科オニヤンマ属オニヤンマ Anotogaster sieboldii や、トンボ亜目ヤンマ上科ヤンマ科 Aeshnidae が代表的ではあるが、ヤンマ上科サナエトンボ科 Gomphidae の種群も似たような縞を持つ。これらは実に科レベルで異なる種なのであるが(「オニヤンマ」類と「ヤンマ」類も科レベルで異なる別種であることに注意!)、面倒なことにサナエトンボ類には「~ヤンマ」という和名を持つ種がおり、昆虫好き以外の一般人はこれらを十把一絡げに混同している向きが強いように思われる。

「莢豆」「さやまめ」。マメ目マメ科マメ亜科エンドウ属エンドウ Pisum sativum 。所謂、通称のサヤエンドウ(莢豌豆)のことである。

 以下、彌生書房版全詩集版。

   *

 

  妻と語る

 

そのぬひばりを針坊主に刺して

まあ、きて御覽

妻よ

これがお前と自分のこしらへた畑だ

庭隅を掘りおこした

一坪ほどの土ではあるが

それでも

ここにまきつけられた種子は

ここをしんじつの母胎として

かうしていきいきと

芽をふき

葉をだし

するすると蔓までのばした

そのぬひばりを針坊主に刺して

まあ、きて御覽

妻よ

にんげんならば手のやうな蔓は

自分が立ててやつた榾木に

それをどんなにまちかねてゐたのであらう

すぐ、ああしてからみついて

いまみるともう

遠い山脈のいただいてゐる雪のやうなそんなくつきりした花を

あちらこちらにうつくしくつけはじめた

そら、ね

まつたくこれはおもちやのやうな畑だけれど

かうして葉と葉があをあをと

もりあがり

かさなりあつて

風にひらひらしてゐるところは

どうみても大森林のやうではないか

 

ほら、蝶々がやつてきた

ほら、縞とんぼがとびたつた

そこにかまきり

どこかにかくれて

鳴いてゐるきりぎりす

それから

そこらを跳ねまはつてゐるのは機蟲(バツタ)の子だらう

 

ああ、いい

ああ、いい

まあ、きて御覽

自分達もそうした仲間であつたらなあ

 

妻よ

こんな酷暑だ

かんかん熬りつけられるやうな

そんな眞夏のまつぴるまだ

いかに自分達のことはいはないにしても

自分はしみじみ

みてゐる目でも凉しいそこの葉かげを

子ども達のためにおもふよ

ほんとに、これは

おもちやのやうな畑ではあるが

お前と自分で

こしらへたんだ

そしてなんといつても

小さな可愛い蟲けらにとつては

うつくしい自然の大森林であらう

もうあんなに

莢豆もぶらさがつた

 

   *

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