無限 山村暮鳥
無限
どこかで鶫(つぐみ)が鳴く
わたしの頰はぬれてゐる
昨日のゆめが浮いてきた
昨日のゆめの氣まぐれもの……
わたしの手は、まだ
穀物の匂ひを握つてゐる
どの邊なんだ
何時ごろだ
それよりはまづ私は何だ
何にも知らない
何にもわからない
それだのに、わたしの頰はぬれてゐる
そして何處まで落ちて行くのだ
わたしは落ちてゐる
昨日のゆめが浮いてきた
もう、幸福はまつたく終り
みなとの船の
帆柱の槍を立て
わたしの一つの壺からは
秋の光りが溢れてゐる
わたしは落ちてゐる
わたしは何にか待たれてゐる
[やぶちゃん注:私はコーダの「わたしは何にか待たれてゐる」に心から打たれている。]

