現實の上に 山村暮鳥
現實の上に
1
もつと、悲痛な冬
薔薇を一つ拜借しませう
おしやれな靈魂だ、月の下で
月が、あんまり耻かしい
2
なんとしたらよからう、さんたくろすのお爺さん
柊の葉の刺を、槇の葉、いり亂れたる金と銀との爭ひ、そのなかで、天使(みつかひ)たちにまもられて、永遠の無形の寂寞(しじま)のふところに玩具の嬰兒は寢(いね)、すやすやと夢を見てゐる
雪、雪、雪、いのちの窓の上の沈默、心を土に埋めたら罪のざんげが花となる、春となる、よろこびとなる、睡くなる、雪、ともしびを吹き消して、水仙の吐息のまぼろし
神經の不思議ないるみねえしよん、むかしの愛の凍(い)てた沼に、かはいさうな若い寡婦(やもめ)の月が出た
ごらんなさい、三十度の直角をもつた技術を、光を、指さきを、捉へがたなき微妙を、血の生首はどこへやら、眼の無いサロメの裸踊り、胎内(はら)の嬰兒が泣いてゐる
餓ゑたれど高貴な冬のたしなみ、燦めく星がほしさうに小さい白い手をかさねて、幸福のせわしさ、引續き、殘忍な影の儀式を行ふ、悲しい異國趣味(えきぞちつく)のクリスマス、肉體のクリスマス
[やぶちゃん注:これは何だか凄い!]