畫 山村暮鳥
畫
畫師(ゑし)なれば畫をかく業ぞ
巧みなる、なべて夢よと
ああ、人は世をこそ語れ。
刷毛(はけ)とりて立つ我が前を
月浴(あ)みて女、男の
行きかよふ、譬へば潮。
しばらくは、また、黃と紅(あか)と
紫の色浮けあふて
消えぬ畫となりぬ、胸の上(へ)。
夜の街、――さながら物の
生きてみな動ける中に
ふと見ゆる君がうしろ畫。
[やぶちゃん注:前の「壁」とともに、明治四〇(一九〇七)年十二月十五日発行の『文章世界』に掲載(先に示した白神正晴氏の山村暮鳥研究サイト内の「山村暮鳥年譜」に拠った)。
標題及び詩中の「畫」は、韻律から見ても「ゑ」と訓じているものと思われる。言わずもがな、第一連の「業」は「わざ」である。第二末尾の「潮」は「うしほ」と私は訓じたい。最終行が一読、忘れ難く、まさに「畫」、映像としてその姿が心底に焼き付けられるではないか。]

