汽車の詩 山村暮鳥
汽車の詩
信號機(シグナル)がかたりと下りた
そこへ重重しい地響をたてて
大旋風のやうに堂々と突進してきた汽車
みろ
並行し交叉してゐる幾條のれーるのなかへ
その中の一本の線をえらんで
飛びこんできた此の的確さ
そしてぴたりとぷらつとほーむで正しくとまつた
此立派さを何といはうか
此の勇敢は壓迫する
けれど道は遠い
滊罐(ヱンジン)をば水と石炭とでたつぷり滿たせ
而して語れ
子どもらの歡呼をうけてきたことを
それから女の首と手足をばらばらにしたことを
木も家もひつくりかへして見せたことを
子どもらの愛するものよ
此の力強さを自分も愛する
[やぶちゃん注:太字は原典では傍点「ヽ」。]