步行 山村暮鳥
步行
天上で
まづ太陽がそれをみてゐる
草木がみてゐる
蝶蝶やとんぼがみてゐる
わんわんがみてゐる
あかんぼがよたよたと步いてゐるのを
ここは路側(みちばた)である
そのあかんぼからすこしへだたつて
手を拍つてよんでゐるのは母である
かうしてあゆみをおしへてゐる
かうしてあかんぼはだんだんと大きくなり
そして強くなり
やがてひとりで人間の苦しい道をもゆくやうになるのだ
おおよたよたと
赤い小さな靴をはき
あんよする
あんよする
お友達がみんなみてゐるのだから
ころんではいけません
此の可愛らしさ
みよ
而も大地を確りとふみしめて
[やぶちゃん注:太字は原典では総て傍点「ヽ」。「かうしてあゆみをおしへてゐる」の「おしへて」はママ。
「確りと」言わずもがな乍ら、「しつかりと(しっかりと)」と読む。]