萬物節 山村暮鳥
萬物節
大地はいふ
「わしは拒まない
わしには
拒むといふことができないのだ
どんなものでも
わしはうける
どんなきたないものでも
わしは拒まない
拒まないばかりか
そのすべてに
あたらしいいのちと
わかわかしさと
自由と力と
美しさとをあたへてやるのだ」
穀物はいふ
「わたしらは穀倉のすみつこで
みんな干涸らびて
みんなふるえてゐました
ある日、農夫がきて
わたしらを重さうにかつぎだしました
そして袋から
わたしらをつかみだして
眩しい日光にさらしました
雲雀でもなきさうな日でした
農夫は駈けだすやうに
はたけにでて
雨上りのしつとりと濕つた土に
わたしらを播きつけました
やがてわたしらは
小さな芽をだしました
それから葉つぱをだしました
葉つぱがでると
はながさき
はながさくと
實がなり
一粒が百粒千粒になつたので、
こんなに大きな穗首を垂れてゐるのです」
[やぶちゃん注:「みんなふるえてゐました」の「え」はママ。標題の「萬物節」とは、恐らくは山村暮鳥が創造した彼の中の総ての生命を讃える記念日の謂いであるように思われる。]