萬物節 山村暮鳥
Ⅱ
[やぶちゃん注:以上は扉(左)の左寄り位置に濃い橙色で印字。]
萬物節
雨あがり
しつとりしめり
むくむくと肥え太り
もりあがり
百姓の手からこぼれる種子(たね)をまつ大地
十分によく寢てめざめたやうな大地
からりと晴れた蒼空
雲雀でも啼きさうな日だ
いい季節になつた
穀倉のすみつこでは
穀物のふくろの種子もさへづるだらう
とびだせ
とびだせ
蟲けらも人間も
みんな此の光の中へ!
みんな太陽の下にあつまれ
[やぶちゃん注:標題の「萬物節」とは(以後の詩集にも詩集総題や詩篇標題として登場する)、恐らくは山村暮鳥が創造した彼の中の総ての生命を讃える記念日の謂いであるように思われる。]