まどろみ 山村暮鳥
まどろみ
女よ。海はひとみの底にして――
波のひびき、松脂(まつやに)の匂ひ
形無き樹(こ)の間(ま)の靜寂にすべてのものは憩へり
霧をこめたる梢よ
梢にかかりて靑き夢よ
たましひを見うしなひし沙の上
女よ。ここに無限がある
雲雀と蟬と、そして鷗と
濱えんどうの花と撫子草(なでしこ)
そよかぜよ、まどろみは果實(このみ)のごとし
わがかなしみに、海よ、な觸れそ
[やぶちゃん注:「濱えんどう」双子葉植物綱マメ目マメ科レンリソウ属ハマエンドウLathyrus
japonicus。ウィキの「ハマエンドウ」より引く。『北海道から九州までの日本各地の海岸に分布する海浜植物。日当たりの良い砂地や岩場などによく見られる。まれに内陸部の湖岸でも見られる』。『全体に粉白色を帯びており、草丈は高くなく、地表面に沿って茎を伸ばし這い広がる。葉は偶数羽状複葉。葉の先端には巻きひげがあり、樹木や柵などがあれば、巻きひげで絡み付いて立ち上がる』。花期は四月から七月で、『濃紫色の花を咲かせる。花がスイートピーに似ており、美しいので栽培されることもある。実はエンドウマメのような形状で、若いものは芽と共に食用にできるが、ラチリズム』(Lathyrism:下肢の痙攣性麻痺などの神経症状を指す。レンリソウ属 Lathyrus の種子では古くから知られる中毒症状である)『を引き起こすオキサリルジアミノプロピオン酸などの毒成分を含むため』、『過食は禁物である』。『和名の由来は、浜辺に生えて、エンドウマメに似ていることから。 種小名はjaponicus(日本の)となっているものの、汎世界種であり、アジア・ヨーロッパ・北アメリカ・南アメリカなどの海岸に分布している』。]

