自分は此の黎明を感じてゐる 山村暮鳥
自分は此の黎明を感じてゐる
自分は感じてゐる
此の氷のやうな闇の底にて目もさえざえと
ふゆの黎明を
遠近(をちこち)でよびかはす鷄の聲聲
人間の新しい日をよびいだすその聲を
ぐらすのやうに冴えかへる夜氣
枯れ殘つた草の葉つぱの上に痛痛しい雪のやうな大霜
なにもかもはつきりとした世界の目ざめ
此の永遠の黎明を
自分はつよく感じてゐる
それをどんなにのぞんでゐるか
而も夜はながい
おもへ
朝日にかがやく冬の畑を
大地の中で肥えふとる葱や大根を
それから人類のことを
[やぶちゃん注:太字「ぐらす」は原典では傍点「ヽ」。]