山 山村暮鳥
山
と或るカフヱに飛びこんで
何はさて熱い珈琲を
一ぱい大急ぎ
女が銀のフオークをならべてゐる間も待ちかねて
餓えてゐた私は
指尖をソースに浸し
彼奴の肌のやうな寒水石の食卓に
雪のふる山を描いた
その山がわすれられない
[やぶちゃん注:「餓えてゐた」はママ。
「指尖」「ゆびさき」。
「彼奴」「きやつ(きゃつ)」。
「寒水石」平凡社「世界大百科事典」によれば(コンマを読点に換えた)、『茨城県久慈郡、多賀郡』(多賀郡は現存しない。現在の高萩市及び北茨城市の全域と日立市の大部分に該当する。前者も恐らく現存する郡域に、現在の常陸太田市の全域及び日立市の一部と常陸大宮市の一部を含んだ旧久慈郡を指すと考えられる。そうすると旧多賀郡から西方へ現行の久慈郡までの連続した一帯を指すことになる)『に産する古生層中に挟まれた結晶質石灰岩(大理石)の石材名』。花崗岩の『貫入によって変成されて、白色から緑灰色の縞模様になっているものが多い。結晶粒は山口県秋吉産ほどではないがやや粗粒、角砂糖のような外観を呈する。水戸寒水,あるいは常陸寒水とも呼ばれ、白いものは古来細工物に利用され、後には建築用としても使われたが、今日では大材は得がたく』、専ら、『砕石、あるいは粉末として工業原料や建築材料に利用される』とある。グーグル画像検索「寒水石」をリンクさせておく。「彼奴の肌のやうな寒水石の食卓に」「雪のふる山を描いた」という描写からは白色のそれで出来たテーブルがよかろう。]