冬 其他 山村暮鳥
冬 其他
(絶望と自由と、一切のさんげ)
冬が來た
雪はしんしん……
心の上に冬がきた
焰(ひ)にきた 愛にきた
空からきた
(これから眞(ほんと)の薔薇がさくのだ)
ゆめがなく
雪はしんしん……
凍えてかぢやの鐵砧(かなしき)が泣く
冬が泣く 闇が泣く
靈がしきりに泣く
(これから世界が生れるのだ)
○
かねもちの馬鹿むすこ
太陽、お前は悲痛をしらぬ
○
黑い鳥がてつぺんにとまつた
今日も木の根は土を掘る
[やぶちゃん注:丸括弧独立行に「○」印を挟んだ、今までに例のない形式の詩篇である。「焰」の用字は底本のもの。
「さんげ」懺悔。懺悔は古くは「さんげ」と清音であった。
「鐵砧(かなしき)」音は「テツチン」で「砧」は訓「きぬた」で判る通り、布や草などを打つために石の台の謂いであるが、これは所謂、金属性の金敷・金床(かなとこ)のこと。鍛冶に用いる鉄製の作業台。]