洋館の靑き窓第四篇 花のうれひ 山村暮鳥
花のうれひ
夢のやうな雨が煙る。
庭の花壇、
十月の晝の樹立、
黃いろな落葉。……
コスモスの花のうれひに
紅くうるんでかゞやく、
瞳。
ああ、私をのこして
友はふたり去るのを歡ぶ。
[やぶちゃん注:「洋館の靑き窓」六編の第四篇。
「煙る」「けぶる」と訓じたい。
「樹立」「こだち」と訓じておく。
「友はふたり去るのを歡ぶ」友人三人で「S」を見舞ったか、或いは二人は先に来ていたものか、ともかくも詩人を残して二人去る「友」ら、それを内心「私」は「歡ぶ」という謂いであろうか(「友」を「S」ととることも可能であるが、そうすると如何にも「S」の内心を見透かしてしまっている詩人となって却って厭味となるから、採らない)。「友は」の位置と指示対象、係助詞「は」、及び、ストイックに心的圧搾を加えた表現に捩じれがあって読み取りにくい難があるが(それがしかしまた微妙に分かるように詩人の心を伝えてもいる)、それは同時に詩人の深層の半無意識的なる心的複合(コムプレクス)を暗示させてもいると言える。]