途上所見1・2 山村暮鳥
途上所見
1
うす靄のなやみの
まひるこそ美しけれ。
雪ふり蟲は雪の如、
ひかりに脆し。
雪ふり蟲ののぞみは
うす靄の紫、
あえかなる夢と溺れつ、
胸の秘密をかなしまむ。
あえかなる夢をたよりに
雪ふり蟲のとびかふ。
[やぶちゃん注:「雪ふり蟲」「雪虫」或いは「綿虫」呼ばれる昆虫類で有翅亜綱半翅(カメムシ)目腹吻亜目アブラムシ上科 Aphidoidea に属するアブラムシ類の内、白腺物質を分泌する腺が存在するものの通称の一つ。体全体が綿で包まれたようになる。雪虫という呼び方は主に北国での呼び名で他にこの「オオワタ」(大綿)・「シーラッコ」・「シロコババ」(白粉婆)・「オナツコジョロ」・「オユキコジョロ」・「ユキンコ」・「シロバンバ」・「ユキバンバ」(雪婆)といった多彩な俗称がある。体長五ミリメートル前後。具体的な種としてはアブラムシ科 Prociphilus 属トドノネオオワタムシ Prociphilus oriens やリンゴの病害虫として知られるEriosoma 属リンゴワタムシ Eriosoma lanigerum などが代表的な種である。アブラムシは通常は羽のない姿で単為生殖によって多数が集まったコロニーを作るが、秋になって越冬する前などに羽を持つ成虫が生まれ、交尾をして越冬の為の卵を産む。この時の羽を持つ成虫が蝋物質を身にまとって飛ぶ姿が雪を思わせ、またアブラムシ類は飛翔力が弱いために風になびいて流れる雪をも思わせことから、かく呼称する。北海道や降雪の比較的多い地方或いは降雪が比較的早くある地方では初雪の降る少し前に出現したりする(と感じられることが多い)ことから、冬の訪れを告げる風物詩ともなっている。雄には口が無く、寿命は一週間ほど。雌も卵を産むと死んでしまう。熱に弱く、人間の体温でも弱る(以上は主にウィキの「雪虫」に拠る)。なお、「ユキムシ」と呼ぶ場合には早春二月頃に雪の上に夥しく出現する襀翅(せきし)目クロカワゲラ科セッケイカワゲラ Eocapnia nivalis を指すこともあるが、ここではそれを範疇に入れる必要はないであろう。]
2
風は獸(けだもの)の如し、
樹々は
眞裸(まはだか)の女。
しづかなる日ざしの
つかれか、
夢と落葉(おちば)。
にんげんなれば
幸無(さちな)さを、
われと煩ふ。