海の詩 山村暮鳥
海の詩
どんよりとした海の感情
砂山にひきあげられた船船
波間でひどく搖られてゐるのもある
はるか遠方の沖から
こちらをさしてむくむくともりあがり
押しよせてくる海の感情
何處(どこ)からくるか
この憂鬱な波のうねりは
そこのしれないふかさをもつて
此の大きな力はよ
ああ海は生きてゐる!
夜晝(よるひる)絶えず
渚にくだける此の波波のすばらしさ
そこにすむ漁夫等を思へ
[やぶちゃん注:八行目「この憂鬱な波のうねりは」は原典では「この憂鬱な波のうねりりは」となっている。これは「うねり」の「り」の衍字としか考えられないので、特異的に除去した。無論、彌生書房版全詩集も加工データとして使用した「青空文庫」版(底本・昭和四一(一九六六)年講談社刊「日本現代文學全集 54 千家元麿・山村暮鳥・佐藤惣之助・福士幸次郎・堀口大學集」)も孰れも「うねり」で「うねりり」とはなっていない。]