正午 山村暮鳥
正午
かなしき獸(けもの)、眠れる獸
音樂の中よりいできたれ
汝(な)が父母は何處に
翼あるたましひの聲
こどもらは一心禮拜
太陽を彫刻すなり
らんらんたる肉體ぞ
とこしへに燃え
世界に愛の息吹きかく
おお、されば夫婦(われら)は躍らむ
とりし手をたかくかかげて
「死よ、ここをくぐれ」と
[やぶちゃん注:「らんらん」は底本では後半が踊り字「〱」。本詩篇は大正三(一九一四)年中に書かれた詩篇であるが、「夫婦(われら)」と出るが、山村暮鳥はこの前年の大正二年六月十七日に富士と結婚している。]