道 山村暮鳥
道
道は自分の前にはない
それは自分のあしあとだ
これが世界の道だ
これが人間の道だ
この道を蜻蛉(とんぼ)もとほると言へ
[やぶちゃん注:知られた高村光太郎の「道程」の初出形の長詩(百二行に及ぶ)は大正三(一九一四)年二月九日に『美の廃墟』三月号に発表されている。それがたった九行の詩に圧搾改変されて、詩集「道程」(抒情詩社刊)に収録されたのは同年十月である。本詩篇はそれ以降(或いは高村の詩の発表直後)に書かれたものではあるが(本詩集自体は大正七(一九一八)年刊)、私は高村光太郎の如何にもな決然とした悔悟みたような辛気臭い「道」よりも、遙かに本詩を心から偏愛する。]