秋の日のこと⑴・⑵ 山村暮鳥
秋の日のこと ⑴
こつそりと
長い着物をきた陰影が
わたしのあとから踉いてくる
しきりに黍の葉がゆれてゐる
綺麗な日だ
手をすかしてみてゐると
天(そら)にうつつてゐる黍畑の中で
うめく一本の電線
さみしい電線
それがはつきりときこえてくる
[やぶちゃん注:「踉いてくる」「ついてくる」と訓じていよう(「踉」はより一般的には「よろめく」と訓ずるが、それではおかしい)。]
秋の日のこと ⑵
風は吐息か
きびの菓かげに
きえうせて
そこに男がひとり
さみしく
しょんぼり瘦せて立つてゐた