かほ 山村暮鳥
かほ
よるもひるもたえず
みえないあらがねの鑿をつかんで
こつこつと專念に一つの顏を彫刻してゐるわたしだ
うつくしくあれ
うつくしくあれと
けれどほりだされる顏をみれば
日一日とみにくゝなる
額にふとく
蟀谷(こめかみ)まで
よこにひかれた惡魔の爪
ことさらに深い一すぢ
そのしたには
おそろしいおとしあなのやうに落窪んだ眼と眼
げつそりとやせこけ
懸崖(がけ)のやうにそげた頰つぺた
くらいかげ
ひらいたら火でも吐くか
きむづかしく
憂欝にひきむすんだ無言の唇
蛆蟲でも匍ひだしさうな鼻の孔
あゝどうしてかうもみにくゝなるのか
ひとのしらない嘆息が洩れる
一生一つのこんな彫刻をするわたしだ
だがいまさらそれがなんとならう
またどうしてこれがすてられよう
これこそ自分の顏である
此の顏の
此の落窪んだ
此のおとしあなのやうな眼のおくにあつても
なほ眞實は汚れず
その二つの星はいまもいきいきと燦いてゐる
こつこつと專念に
みえないくるしみの鑿をつかんで
一生一つのこんな彫刻をするわたしだ