人間の神 山村暮鳥
人間の神
手に大鍬をつつぱつて
ひろびろとした穀物畠の上をしみじみ眺めてゐる
としよつた農夫の顏よ
その顏の神神しさよ
農夫は世界のたましひである
農夫は人間の神である
黎明(よあけ)からのはげしい勞働によつて
崖壁のやうな胸をながれる脂汗
その胸にたたへた人間の愛によつて
穀物は重い穗首をひくく垂れた
みよ一日はまさに終らんとしてゐる
赤赤しい夕燒け空
大鍬の泥土(どろ)をかきおとすのもわすれて
農夫はひろびろとした穀物畠を飽かずながめてゐる
その彼方(かなた)にあかあかと
太陽は今やすらかにはいつて行くところだ