新聞紙の詩 山村暮鳥
新聞紙の詩
けふ此頃の新聞紙をみろ
此の血みどろの活字をみろ
目をみひらいて讀め
これが世界の現象(ありさま)である
これが今では人間の日日の生活となつたのだ
これが人類の生活であるか
これが人間の仕事であるか
ああ慘酷に巣くはれた人間種族
何といふ怖しい時代であらう
牙を鳴らして嚙合ふ
此の呪はれた人間をみろ
全世界を手にとるやうにみせる一枚の新聞紙
その隅から隅まで目をとほせ
活字の下をほじくつてみろ
その何處かに赭土の瘠せた穀物畠はないか
注意せよ
そしてその畝畝の間にしのびかくれて
世界のことなどは何も知らず
よしんばこれが人間の終焉(をはり)であればとて
貧しい農夫はわれと妻子のくふ穀物を作らねばならない
そこに殘つた原始の時代
そこから再び世界は息をふきかへすのだ
おお黃金色(こがねいろ)した穀物畠の幻想
此の黃金色した幻想に實のる希望(のぞみ)よ