ひとりごと 山村暮鳥
ひとりごと
一日中のはげしい勞働によつて
ぐつたりとつかれた體軀(からだ)
今朝(けさ)みると
むくむくと肥え太り
それがなみなみと力を漲らしてゐる
そしてあふれるばかりになつてゐる
それは大きな水槽が綺麗な水を一ぱいたたえてゐるやうだ
たらたらと水槽には筧の水がしたたるのだが
おお此の肉體の力はよ
それは眠つてゐるまに何處(どこ)から來たか
力はあふれる水のやうなものだ
肉體から充ちあふれさうな此の力
それをまたけふもけふとて彼方(かなた)で頻りに待つてゐる
あの丘つづきの穀物畠
あの色づいて波立てる麥の畠をおもへ
此の新しい日のひかり
新しくあれ
ゆたかな力のよろこびに生きろ
[やぶちゃん注:七行目「たたえてゐる」はママ。]