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2017/03/15

航海の前夜第二篇 榲桲の匂ひ   山村暮鳥

 

  榲桲の匂ひ

 

とりちらされた机の上の榲桲(まるめろ)より‥‥‥

ちからなき瞳を閉ぢれば、榲桲の

黃の微笑なつかしく、

さ迷ひしのぶ黑き冬の日。

 

一日を忘れ殘れる、水盤の泡の樣な女。

見よ、あまい疲れにうるむ唇、

綠りの髮柔かく

まろき頰に

頸(うなじ)に

肩のほとりに。

 

とりちらされた机の上の榲桲より……

…………

 

ああ、榲桲の匂ひより

重き眼瞼を見乍らこのままに死なうとおもふ。

 

[やぶちゃん注:「航海の前夜」五篇の第二篇。「り」を送るのはこの時期の彼の癖と思われる。

「榲桲」バラ目バラ科シモツケ亜科ナシ連ナシ亜連マルメロ属マルメロ Cydonia oblonga一属一種。ウィキの「マルメロ」によれば、中央アジアを原産とし、『果実は偽果で、熟した果実は明るい黄橙色で洋梨形をしており』、長さ七~十二センチ、幅六~九センチあり、『果実は緑色で灰色~白色の軟毛(大部分は熟す前に取れる)でおおわれている』。『果実は芳香があるが強い酸味があり、硬い繊維質と石細胞のため生食はできないが、カリンと同じ要領で果実酒(カリン酒に似た、香りの良い果実酒になる)や蜂蜜漬け、ジャムなどが作れる』とある。

「眼瞼」「まぶた」と訓じておく。

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