大韮露章 山村暮鳥
大韮露章
Ⅰ
ここは天上で
粉雪がふつてゐる
はつふゆの日は古代模樣のさみしさ
その上にふる雪
雪以上の雪の風景
陰影(かげ)がふりかへつては
直覺的にわたしの手を眺める
陰影はそれとなくゆれてゐる……
ここは天上で
粉雪が頻りにふつてゐる
[やぶちゃん注:総題の「大韮露章」は「だいきうろしやう(だいいきゅうろしょう)」と音読みしておく。漢代の葬送歌「薤露歌」(かいろのうた)や夏目漱石の「薤露行」(かいろこう)で知られるように、薤(にら)の葉の上の露は消え易いところから、「人の世のはかないこと」「人の死を悲しむ涙」をシンボライズした語が「薤露」である。ここは「大韮」であるから、単子葉植物綱キジカクシ目ヒガンバナ科ネギ属ラッキョウ Allium chinense の葉の上の露ということになる。]
Ⅱ
まふゆの空は
瞳のなかに澄んでゐる
すつかり葉つぱのおちつくした
樹木は樹木のさみしさに
雪のふるのをまつてゐる
そしてわたしは
神のやうな悲哀を舐めて生きてゐる
Ⅲ
うまれたばかりの
あかごののどぶえを
ぎゆつとしめていつたのは
なにものだ……
あをぞらの木から
さみしいものがふつてゐる……

