秋のよろこびの詩 山村暮鳥
秋のよろこびの詩
靑竹が納屋(なや)の天井の梁にしばりつけられると
大きな摺臼は力強い手によつてひとりでに廻りはじめる
ごろごろと
その音はまるで海のやうだ
金(きん)の穀物は亂暴にもその摺臼に投げこまれて
そこでなかのいい若衆(わかいしゆ)と娘つ子のひそひそばなしを聞かせられてゐる
ごろごろと
その音はまるで海のやうだ
ごろごろごろごろ
何といふいい音だらう
あちらでもこちらでもこんな音がするやうになると
お月樣はまんまるくなるんだ
そしてもうひもじがるものもなくなつた
ああ收穫のよろこびを
ごろごろごろごろ
世界のはてからはてまでつたへて
ごろごろごろごろ
[やぶちゃん注:「廻」は原典の用字。]