曲つた木 山村暮鳥
曲つた木
うすぐらい險惡な雲がみえると
すぐ野の木木はみがまへする
曲りくねつた此の木木
ねぢれくるはせたのは風のしわざだ
そしてふたたびすんなりとは
どうしてもなれない
そのかなしさが
いまはこの木の性となつたのか
風のはげしい此處の曲りくねつた頑固な木木
骨のやうにつつぱつた梢にも雨が降り
それでも芽をつけ
小鳥をさえずらせる
まがりなりにも立派であれ
ああ野にあつて裸の立木
ああ而もなほ天(そら)をさす木木
[やぶちゃん注:「さえずらせる」は「え」も「ず」もママ。歴史的仮名遣としては「さへづらせる」が正しい。]