蝗 山村暮鳥
蝗
くるしみはうつくしい
人間の此の生きのくるしみ
これは人間ばかりでない
これが自然の深い大きな意志であるのか
深藍色にすつきりとした空
秋の日のうすらさみしさ
あちらこちらの畦畦にみすぼらしい彼等をみよ
女達と子ども等と
その手をのがれて逃げまどふ蝗蟲(いなご)を
ひつそりと貧しい村村
ながながしい鷄の聲
田の面はひろびろと凪ぎ
蝗蟲がぴよんぴよん飛んでゐる
それをつかまへようとしてあらそひ
それを追つ驅けまはしてゐる彼等
しきりにぴよんぴよんと
弱弱しい晝過ぎの光線を亂してとんでゐる
そしてまんまと捕へられる蝗蟲よ
[やぶちゃん注:「深藍色」気になって調べてみたところ、和名色名としては、何とこれで「ふかきあゐいろ」と訓ずるらしい。そうして、そう訓じた時こそ私はこの部分を素直に気持ちよく朗唱出来ることに気づいたのである。]

