午後 山村暮鳥
1915
Ⅲ―Ⅵ
[やぶちゃん注:八十五ページの後の遊び紙の間の投げ込み紙片。]
午後
さめかけた黃(きいろ)い花かんざしを
それでもだいじさうに
髮に挿してゐるのは土藏の屋根の
無名草
ところどころの腐つた晩春……
壁ぎはに轉がる古い空(から)つぽの甕
一つは大きく他は小さい
そしてなにか秘密におそろしいことを計畫(たくら)んでゐる
その影のさみしい壁の上
どんよりした午後のひかりで膝まで浸し
瞳の中では微風の纖毛の動搖。
[やぶちゃん注:本篇は大正四(一九一五)年六月一日発行の『詩歌』に、次の「風景」とともに発表されている。]