えぴそおど1・2・3・4 山村暮鳥
ほろびゆくもの
えぴそおど
1
ぶすぶすと希望(のぞみ)のほめき、
冷酷な冬の理性の
光より薄きをんなの愛、
不安の空は信實なるゆめを求め
灰色にふせし眼瞼(まぶた)よ。
しづかなる力を感じ
而して躊躇(ためら)はず、
赤きしぐなる燈、上る。
空をさ迷ふ樹葉(このは)の如く
わが蝙蝠は悲しみ、
こころの闇を飛びかふ。
[やぶちゃん注:太字「しぐなる」は底本では傍点「ヽ」。]
2
冬は信實な心、
冬は斷末魔の聲、
冬はかなしき接吻(くちづけ)なれ、
或は、死ぬる女の美しさ、
勿體ないほど美しいその雪空の
そつと沁(にぢ)んでゆく色を
ぱんかの如く、
餓えたわが靈(たましひ)は
しかと兩手(もろて)に摑(つか)んで泣く。
[やぶちゃん注:太字「ぱん」(「パン」のこと)は底本では傍点「ヽ」。「餓えた」はママ。]
3
暖爐の上なる猫は
こころよく眠り、
圓い時計盤より滴る靑い夢、
垂直に、力をぬいて、
ぶらりとぶら下がつた銅色の振子(ふりこ)に
すがりつき、
あらゆる幸福は默(もだ)す。
「時」は一つ所で
ながれてゐる、
そして「現實」を凝視(みつ)めてゐる。
4
にぎやかな線畫の如く、
水かげろふが搖れる。
どこかで、
光が呼んでゐる。
いのちよ、何がうれしいのか、
もののほめきの忍びやかなる
さぐりよるめしひの手つき、
芽は感覺に――
[やぶちゃん注:「水かげろふ」老婆心乍ら、「水陽炎」。水面が細かく揺れることで、太陽などの反射光が揺らめくように水辺や岸や船縁(ふなべり)などに当たって、きらきらとする現象を指す。]

