現實 山村暮鳥
現實
草の中を一頭の豚
それに續いて一頭の鹿
また續いて一頭の犬
また續いて一頭の牛
凡て方向を等しく走るのは何の兆(しるし)だ
樹木が四五本
その附近(あたり)を嗅ぎ𢌞る
純理性的な鼬
素つ裸のにんげんが丘の上で
腹這つて泣いてゐる
その尻のところでお日樣の泥醉
蛇はどくろを卷いて眠り
木兎はふりかへつて思案し
魚はにんげんの尻の上の
お日樣をのまうとして罪を犯した
さて、綺麗な悲哀の紋章の瞳!
鎧の樣な翼をもつた鳥は
もの憂さに長鳴き
高脚の大香爐を中に立てて
相對して男と女との交禮感觸
馬はその兩側に繫れて
うち默し
折々、木の葉を搖がす
空間一面に燦めく星
――これが私の手の匂ひだ

