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2017/03/15

航海の前夜第一篇 病めるSに   山村暮鳥

 

  病めるSに

 

鉛の如に重く、ゆく方無き夕べの底。

鳥は大なる悲哀に飛𢌞りさ迷ふ。

 

三階の窓より

Sよ、

おまえの胸にもたれて滅びゆく日のかがやきを見た。

 

五月、

その五月の靑い夕

しづかに、靜かに

薄昏れゆく。

 

病めるSよ、

ああ、半開の快よき、

瞳をあげ、

微笑の唇を動かし給へ。

 

その五月、

(薔薇(いばら)の匂ひ)

 

見よ、みよ、市街の中央にそびえて

歡ばしき春を待つ、

時計臺の赤き電燈。

 

[やぶちゃん注:底本の彌生書房刊「山村暮鳥全詩集」ではここから「『自然と印象』から」というパート大見出しになって、本「病めるSに」以下を、

 

 航海の前夜 五篇

 

と総標題する。その第一篇である。先に示した白神正晴氏の山村暮鳥研究サイト内の山村暮鳥年譜の明治四三(一九一〇)年二月一日(満二十六歳)の条に、『「病めるSに」他を『自然と印象』に掲載』とあることから、以下に続く『自然と印象』所収の詩篇群もこの時期と考えてよかろう。

この『自然と印象』とは、彼が遅れて参加した「自由詩社」(人見東明・加藤介春・三富朽葉らが興した口語による自由詩を提唱した結社で、反文語・反定型を謳った。結成は明治四二(一九〇九)年で暮鳥は翌四十三年二月に同人となっている。因みにこの時、人見東明から「静かな山村の夕れの空に飛んでいく」という意味をこめて「山村暮鳥」の筆名を貰った(彼の本名は「土田八九十(つちだはくじゅう)」で旧姓は「志村」である)。ここはウィキの「山村暮鳥」に拠る)の機関誌の雑誌名である。

「S」不詳。次の詩群「洋館の靑き窓」の第二篇「時雨」にも登場する。本篇では今一つはっきりしないが、そちらを合わせて読むと、結核を病み、高原の療養所と思しいところにいる女性であることが判る。また、後の詩集「三人の處女」(大正二(一九一三)年)の詩集名ともなった一篇が気になる(底本は原詩集。太字は原典では傍点「ヽ」)。

   *

 

  三人の處女

 

指をつたふてびおろんに流れよる

晝の憂愁、

然り、かくて縺(もつ)れる晝の憂愁。

 

一の處女(おとめ)をSといひ、

二の處女をFといひ、

三の處女をYといふ。

然してこれらの散りゆく花が廢園の噴水をめぐり、

うつむき、

匂ひみだれてかがやく。

 

びおろんの絃(いと)よ!

悲しむ如く、泣く如く

哀訴(あいそ)の、されどこころ好き唄をよろこぶ

銀線よ!

 

晝の憂愁……

 

   *

 

その「一の處女(おとめ)」「S」とは、この「S」なのでは、ないか、と。]

 

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