秋意 山村暮鳥
秋意
洋館(やうくわん)のしづかな庭のコスモスがはかなげな色をして晴れた大空を眺めてゐる。
背の高い、そのコスモスの傍(そば)を雁(がん)の唱歌をうたひながら幼稚園のこどもらの通つたのは午後の事、
どこかで鳴らす低い、けれども黑い悲觀的な聖曲……。わたしの好な、あの瞳(め)の靑い異人さんは怪しいおほきな汽船で遠い遠いKIRISITAN の國からきた齡(とし)の若い尼達(あまたち)。
かよわい蝶のゆくへ!
なにかしら怖氣(おぢけ)づいてコスモスの花が搖れてすら、あはただしい羽をかがやかす。さうして「夜」の前を、それでも輕さうに走つてゆく。
秋の日光の、かうしたすべての景色(けしき)と心の、やがてはそれが尼達のさびしい夢となるのだらう?
[やぶちゃん注:「遠い遠い」の後半は底本では踊り字「〱」。「かよわい」はママ。
「好な」「すきな」。]

