そこの梢のてつぺんで一はの鶸がないてゐる 山村暮鳥
Ⅸ
[やぶちゃん注:以上は扉(左)の左寄り位置に濃い橙色で印字。]
そこの梢のてつぺんで一はの鶸がないてゐる
すつきりとした蒼天
その高いところ
そこの梢のてつぺんに一はの鶸(ひわ)がないてゐる
昨日(きのふ)まで
骨のやうにつつぱつて
ぴゆぴゆ風を切つてゐた
そこの梢のてつぺんで一はの鶸がないてゐる
それがゆふべの糠雨で
すつかり梢もつやつやと
今朝(けさ)はひかり
煙のやうに伸びひろがつた
そこの梢のてつぺんで一はの鶸がないてゐる
それがどうしたと言ふのか
そんなことをゆつてゐたのでは飯が食へぬと
ひとびとはせわしい
ひとびとのくるしみ
くるしみは地上一めん
けれど高いところはさすがにしづかだ
そこの梢のてつぺんで一はの鶸がないてゐる
[やぶちゃん注:「ゆつてゐた」「せわしい」はママ。
「鶸」既出既注。
「糠雨」「ぬかあめ」霧のように細かな雨。霧雨。「小糠雨(こぬかあめ)」と同義。]

