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2017/03/23

わすれられてゐるものについて   山村暮鳥

 

  わすれられてゐるものについて

 

君達はひつ提げてゐる

各自(てんで)に槓杆(てこ)よりも立派な腕を

石つころをも碎く拳を

これはまたどうしたものだ

それで人間をとり返えさうとはしないのか

全くそれを忘れてゐる

そして馬鹿だと罵られてゐる

鐵のやうな腕と拳と

金錢(かね)で賣買のできない武器とは此のことだ

それは他人には何の役にも立たない各自のもので

君達に最初さういふ唯一の尊い武器をくだすつたのは神樣だが

それをまるで薪木(たきぎ)にもならないものだと嘲つて棄てさせやうとした惡漢(わるもの)は誰だ

だが考えてみれば

馬鹿だと言はれる君達よりも

君達を馬鹿だといふ奴等の方がよつぽど馬鹿なんだ

いまに君達がひつ提げながらも忘れてゐるその腕と拳とをおもひだす時

其時、一人が千人萬人になるんだ

其時、彼奴等(きやつら)は地べたにへたばるんだ

まあいいさ

何もかも神樣がごぞんじでいらつしやることだ

さうして其時、世界が息を吹返すんだ

 

[やぶちゃん注:五行目「それで人間をとり返えさうとはしないのか」の「返えさう」の「え」はママ、十二行目「それをまるで薪木(たきぎ)にもならないものだと嘲つて棄てさせやうとした惡漢(わるもの)は誰だ」の「させやう」、及び次行の「だが考えてみれば」の「考えて」もママ。]]

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