疾風の詩 山村暮鳥
疾風の詩
あらゆるものをけちらし
あらゆるものに吼えかかる疾風
街上をまつしぐらに
疾風はまるで密集せる狼のやうだ
そしてあばれてきて郵便局のぐらすの大扉につきあたり
けれどすばやく
くるりとひきかへし
右に折れ
停車場の方をめがけて走つて行つた
そのあとの街上さびしく
もめくちやにされた自分はそこで紙屑のやうにひるがへりつつ
疾風のゆくへをじつとながめてゐた
この疾風はどうだ
それだのに人間の自分は
おお紙屑のやうにひるがへりつつ
[やぶちゃん注:「ぐらすの大扉につきあたり」の太字「ぐらす」は原典では傍点「ヽ」(ここは「ガラス」と同じ意ととれる)。「もめくちやにされた」の「もめきちや」はママ。]