りたにい ⑴・⑵ 山村暮鳥
りたにい ⑴
闇が踊つてゐる
闇が泣いてゐる
信愛はみがきあげたよるの光澤(つや)で
苦痛の花のほめき
をんなのやうな惱みにふる
みだりがはしい音樂の雪
闇が踊つてゐる
沈默がくるつてゐる
ともしびをとりまくたくさんの猫の瞳(め)
心よ私はいたはらう
心よ私のいつもの懺悔の芽を……
なぜとなら生命(いのち)は刹那
奇異と愛とにねむりこけ
憂鬱をめがけて行く
[やぶちゃん注:「りたにい」(フランス語・ドイツ語:Litanie/英語:litany/ラテン語:litania(リタニア))でローマ・カトリック教会に於ける荘厳に連続させる祈り、「連禱」のこと。「キリエ、エレイソン」を以って始まり、「アニュス・デイ」をもって閉じられる。音楽用語としても用いられ、「パレストリーナ」・「ラッソ」等の多声作曲もある。]
りたにい ⑵
Ⅰ
空よ。聖靈のやうな力を……
なにか動搖してゐる
草のはつぱの
その陰影(かげ)のあらし
わたしの唇(くち)はひだまりの
やはらかさにさヘ靑まない
どこからどこへ
風よ、あらしよ
わたしにも與へておくれ
聖靈のやうな力を
その漂浪(さすらひ)のなみだを、乳房を
Ⅱ
うちもだす光線
傷いた光線
おもひでが
ぽつと赤らんだ
(こころよい葬ひの悲曲
それが影のやうにすぎてゆく
傷いた光線
よろこぶ光線
晝もなほ暗い煤烟(けむり)のふところである
たゞれくるめき
めをなきつぶして入日がはしる
あとをもみずにはしる
よろこぶ光線
狂ふ光線
[やぶちゃん注:「Ⅱ」の第二連の三行目冒頭の丸括弧の〈閉じる〉(『)』)がないのはママ。恐らくは次行の末にあると考えてよいように私には思われる。即ち、
おもひでが
ぽつと赤らんだ
(こころよい葬ひの悲曲
それが影のやうにすぎてゆく)
である。大方の御叱正を俟つ。]

