鴉にかたる 山村暮鳥
鴉にかたる
からりと晴れた朝だ
からりと大きく
そしてたかく
これから酷しい冬にはいる
十月ごろの朝の蒼空ほど
きつぱりと氣持のいゝものはない
槍の穗尖でもつきつけられたやうだ
おう、おはやう
君達はいつもはやいね
鴉君
僕はいまおきたばかりだ
まだ顏も洗はないんだ
昨夜はどうだつたい
あのすばらしい暴風雨は
あの猛烈さは
まつたく何ともいへないね
君の巣はなんともなかつたかい
僕はこども達がねてゐるので
それをめざますまいと氣が氣ではなかつた
まるで戰爭だね
雨戸一重をさかひにして
僕はうちから
あらしはそとから
あらしが吼えくるつて大波のやうにのしかゝるのを
野獸のやうな力で僕が
ぐつとさゝへる
押しかへす
またのしかかると
また押しのける
それこそ自分ながら勇敢だつたよ
僕はもう
僕の力をうたがはない
だが暴風雨のあのすばらしさは
何がなんでもほめたたえずにはゐられない
[やぶちゃん注:最終行「たたえずには」の「え」はママ。]

