三人の處女 山村暮鳥
三人の處女
指をつたふてびおろんに流れよる
晝の憂愁、
然り、かくて縺(もつ)れる晝の憂愁。
一の處女(をとめ)Sといひ、
二の處女をFといひ、
三の處女をYといふ。
然してこれらの散りゆく花が廢園の噴水
をめぐり、
うつむき、
匂ひみだれてかがやく。
びおろんの絃(いと)よ!
悲しむ如く、泣く如く
哀訴(あいそ)の、されどこころ好き唄をよろこぶ
銀線よ!
晝の憂愁……
[やぶちゃん注:二ヶ所の太字「びおろん」は底本では傍点「ヽ」である。重要な詩集題の元となった詩篇である。以上は原典のママに活字化した。問題は第二連の「をめぐり、」である。原典は前の「然してこれらの散りゆく花が廢園の噴水」が左六十九頁の最終行で、ここは下部がノンブルにぶつかっている。さればこそ、現行の彌生書房版全詩集では、この一篇は以下のようになっている。
*
三人の處女
指をつたふてびおろんに流れよる
晝の憂愁、
然り、かくて縺(もつ)れる晝の憂愁。
一の處女(をとめ)Sといひ、
二の處女をFといひ、
三の處女をYといふ。
然してこれらの散りゆく花が廢園の噴水をめぐり、
うつむき、
匂ひみだれてかがやく。
びおろんの絃(いと)よ!
悲しむ如く、泣く如く
哀訴(あいそ)の、されどこころ好き唄をよろこぶ
銀線よ!
晝の憂愁……
*
しかし、どうであろう? 続く「をめぐり、」と「うつむき、」は同字数で視覚的には綺麗に並んでいる。しかも送ったことを示す一字下げのような仕儀も採られていない。確かに、韻律的には繫がって読まれてしっくりとは、くる。しかし、頁を捲った読者には、どうか? 私は以上の電子化を〈安易に連続したものとして示す気〉には、なれない、のである。大方の御叱正を俟つ。なお、私には「S」も「F」も「Y」も不詳ではある。しかし既に電子化した先行詩篇の中に「S」と「F」が出現することは、偶然とは思われない。]