朝 山村暮鳥
朝
菜つ葉をみよ
あさつゆに
びつしよりと濡れてゐる
寂しい菜つ葉を
冬近い
はたけの菜つ葉
ひんやりとふりそそぐ
日の光りだ
わたしたちの生は短い
ほんとに短い
そして苦惱にみちみちたものだが
それはまた
何といふ美しさだらう
太古のことがおもはれる
あゝ寂しい菜つ葉
それを神樣もわたしたちのやうに
よろこんで食べてゐたのか
やがて、雪が
ちらちら飛ぶ頃になると
お伽噺がいきいきと
わかゞへつてくるにきまつてゐる
現實世界の神祕的な
一體、眞實といふものは何だ
より大きな創造のために
浮身をやつすわたしたち
それまでだ
さあ、あさつゆを
はねかすのもよからう
踊つておくれ
風がふいたら
ひらひらとしなよく
きらきらと
きらきらと
寂しい菜つ葉よ
だがそこにつるんでゐる蜻蛉を
それで
びつくりさせないやうに